プラシーボ効果はなぜ起こるのか
「プラシーボ」とは、「薬効効果」を出す成分が入っていない「薬に似 たもの」を言う。 「プラシーボ」は、往々にして、実際に効果を示すことがあるが、その 理由に関する本格的な研究は、何十年間も行なわれてこなかった。 最近になって、精神医学や神経医学の分野において、このプラシーボの ぞを解き明かそうとする新しい動きが出てきた。 なぜプラシーボが効く人と効かない人がいるのか? どうすれば、医療 倫理に反することなくプラシーボの研究ができるのか? 神経科学者の メラニー・レイトナー氏は先月、講演で科学者たちに「信じる力を活か すということは何を意味するのか」と問いかけた。 「実際プラシーボの研究はあまり多くない」と、シカゴ大学名誉教授で 疫学者のジョン・ベイラー博士は話した。「これに関する記述は頻繁に 目にするし、話題に上ることも多いが、よく分かっていないのが現状 だ」 しかし明らかだと思われることが1つある。脳が「重要な役割」を果し ている――レイトナー氏は、2月に行なわれた米国科学振興協会(AAAS) の会合におけるプラシーボに関するワークショップで、このように述べ た。 スタンフォード大学の精神医学者でプラシーボの研究をしているデビッ ド・スピーゲル博士は、「脳が病気に伴う症状やさまざまな知覚を処理 する際、あるいは免疫システムが作用する際に、プラシーボの投与がど う影響しているかを研究する必要がある」と指摘した。 研究によると、プラシーボと気づかずに服用──錠剤の場合も注射の場 合もある──した人は、往々にして、痛み、心臓疾患や胃腸疾患、高血 圧症状が和らいだと感じることがあるという。 一方でプラシーボは、ガンのような病気の治療には役に立たない。「病 気に感覚的症状がある場合に効果が出るケースが多い」とスピーゲル博 士は言う。 プラシーボ効果は、実際は気持ちの問題なのだとする専門家もいるが、 それですべてが説明できるわけでもない。 「多くの人はプラシーボ効果を、単に、医師と患者の人間関係や、手を 患部に置くことで痛みが薄れるように感じることや、信頼関係といった ような問題だととらえている」と、エモリー大学のヘレン・メイバーグ 博士(神経精神医学)は話す。 そういう人は、「プラシーボは手軽な心理療法で、相互交流に過ぎず、 どんな交流でも効果がある」と主張するのだという。 しかしプラシーボの効果はそれだけではないとメイバーグ博士は考えて いる。 同博士は他の研究者とともに、鬱(うつ)症状の人々を、3つのグループ ──プラシーボの抗鬱剤を服用するグループ、認知療法を受けるグルー プ、本物の『プロザック』の錠剤を服用するグループ──に分けて脳の スキャンを行なった。 プラシーボを服用した患者の何人かは気分が改善したと感じ、スキャン の結果、抗鬱剤服用グループの被験者と同じような反応が見られた。 ただし「対話」療法を受けた人にはそうした反応は見られなかったとい う。 つまり、プラシーボが作用する脳の部位は、本物の薬が作用する部位と 同じであると思われる。 しかしメイバーグ博士によると、プラシーボはプロザックほど強力では なく、効果の持続期間も長くなかったという。 「プロザックはプラシーボと同等ではない。プラシーボ以上のものがあ る」とメイバーグ博士は言う。
この「プラシーボ」(プラセボとも言う)があるから、治験はややこしいことをやるわけよ。
新薬の開発を人間でやる治験では基本的に必ず、どこかのステップ(フェーズ ワン から フェーズ スリーまでのどこか)でプラセボを対照として、治験薬の効果を確かめる。
この時は、医者も患者も、製薬会社の人間も、その患者に薬効成分が入っている「実薬」と入っていない「プラセボ」のどちらが使われているかが分からないようになっている。
このような治験の方法を「二重盲検試験」(ダブルブラインド試験)という。
このことは、治験に参加する前に患者には「インフォームドコンセント」で知らされる。
一般の人はあまり知らないと思うが、場合によっては、新薬の卵がプラセボに「負ける」ことが結構ある。
そうやって、日の目を見ることが出来なかった「新薬の卵」(治験薬)がどれくらいあることか。
恐ろしいことに、現在、日常診療に使われている薬の中にも、プラセボに負けるだろうと思われている薬がある。
まぁ、それだけ治験(薬の評価方法)が難しいということでもあるのだが。