「嫌な記憶消せ」と前頭葉が指令…米研究で解明

嫌な記憶は早く忘れ去りたい。精神分析学者フロイトが「抑圧」と呼んだこの心理現象が脳内で実際に起こり、それがどのような仕組みで行われているかを、米の研究グループが明らかにした。積極的に記憶を失う仕組みが脳には備わっているようだ。嫌な記憶で苦しむ「心の傷」の治療法開発の基礎につながる可能性がある。9日付の米科学誌「サイエンス」に発表する。

研究グループは脳活動を外側から観察できる機能的MRI(磁気共鳴画像装置)を用いた。

24人の被験者にまず一対の言葉を記憶してもらう。次にそのうちの片方を提示している時、もう一方の言葉を思い出す、または意識的に考えるのを避けるように指示した。

その結果、意識的に考えないよう記憶を抑圧している時、脳の前頭葉の一部で活動が高まり、逆に記憶を作るのに重要な「海馬」の活動は下がった。実際にこうした状態では記憶が損なわれていることも示され、記憶が形成されないように前頭葉が海馬へ指令しているらしい。研究グループは「記憶の抑圧によって記憶が永久に消えるかどうかは分からない」という。

東京大医学部の宮下保司教授(生理学)の話「一度記憶した出来事を思い出さないように抑制する脳内メカニズム解明に手掛かりを与える研究だ。より詳しい理解には多方面から解析が必要だろう」