「無細胞たんぱく質合成システム」を開発した愛媛大工学部教授、遠藤弥重太さん


◆「他人のまねはしない」モットーに――


◆海外で評価される研究を

昨年4月、米国ワシントン。米国国立衛生研究所(NIH)での講演会に招かれ、自らの研究成果を講演した。
NIHは全米の生命科学や医学、薬学などの研究を包括する代表的な研究所。講演は米国人研究者を中心に英仏の研究者約90人が出席、インターネットで全世界に中継もされた。「海外で評価されるのは、やはりうれしい」

00年1月、すりつぶした小麦はい芽の抽出液に特定の遺伝子を入れることで、生命体を構成するたんぱく質を人工合成できる「無細胞たんぱく質合成システム」の論文を発表した。

たんぱく質作りは、大腸菌に遺伝子を組み込んで培養する手法が主流。だが、その手法では安価で良質なたんぱく質を大量に作ることができない。
同システムはそれを解消する技術だった。

海外交流は進んだ。
昨年10月、たんぱく質研究が盛んな米・ウィスコンシン大と共同研究協定を締結。英・ケンブリッジ大とも同様の話が進んでいる。
国内でも、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんとの共同研究が昨春から始まった。


「他人のまねはしない」がモットー。
しかし、世界レベルの技術にたどり着くまで回り道もした。
同システムは、小麦はい芽を抽出液にする前に、よく水洗いをしてはい芽が持つ合成機能の自殺因子を取り除く。
だが、薬品などを試したことで、単純な水洗いに気付くまで約7年を費やした。「最新技術を取り入れるなど、難しく考えてしまった」と自省も忘れない。
 

合成たんぱく質はワクチン開発などに役立つ。昨年9月に発表したSARSウイルス増殖機能がある合成たんぱく質は現在、理化学研究所で抗SARS薬の研究開発に使われている。

「新薬開発など実用的な成果に広がらないと、合成たんぱく質は意味がない」。そして、付け加えた。「成果に結び付ける自信があります」


◆若者へのメッセージ 自分で進む方向を

勉強してほしい。学習と勉強は違う。学習とは、例えば受験用の学習のようなものだが、勉強は自分でテーマを見つけて探求するもの。方程式を解くのが学習なら、方程式を設定するのが勉強だ。知識を詰め込み、前例に頼って後ろを向いたまま進むのではなく、前を向いて自分で進む方向を見つけてほしい。(遠藤弥重太さん)