シドニー・ブレンナー米ソーク研究所教授

ブレンナー博士は、1960年前後の分子生物学の黎明期に多方面にわたる活発な研究を展開したが、特にDNAの遺伝情報が蛋白の構造へ伝達される中間にメッセンジャーRNAが存在することを証明した業績は有名である。
また、アミノ酸と遺伝暗号の関係について研究し、DNAあるいはRNAの3つのヌクレオチド(トリプレット)によって、ひとつのアミノ酸の情報が写し取られることを主張した。
さらに、そのようなトリプレットの中のある組み合わせ、たとえばウラシル、アデニン、グアニンという組み合わせは、そこで読み取りが終わるナンセンス・コドンと呼ばれる終止を示す暗号であることを明らかにした。
これらの研究業績は、今日の分子生物学、ひいては遺伝子工学の基礎をなすもので、その貢献は国際的にも高い評価を受けている。
 
その後ブレンナー博士は、多細胞生物における遺伝情報と発生、分化の過程を調べるモデルとして、構成細胞数が少なく、遺伝解析、生化学分析の容易な線虫(C.elegans)の実験系を開発した。
この研究では線虫の発生・分化過程を細胞レベルで完全に記述し、細胞分裂のタイミングと位置が遺伝学的に完全にプログラムされていることを明らかにする一方、大部分のDNAをクローニングすることにも成功した。
 
現在、ブレンナー博士の先導的研究に刺激されて、国際的に多くの研究室が相互に連帯しつつ、C.elegansの解剖学、遺伝学、発生学、行動などについて活発な研究を総合的に進展させている。