●治験のあり方を考える(2)新薬の世界同時開発を考える

ところで、このように海外で治験を先行させ、もしその結果が良ければ日本国内で治験を開始する、というやり方は海外諸国から非難の対

象になることも考えられる。

つまり、「危ない」治験を海外の人で試して、もし安全で有効なら日本国内で治験をやるということはいつもの「いいとこどりの日本」で

はないか、という非難だ。

この非難に対して説得力のある「言い訳」は存在しない。(たとえ、国内企業に「そんな意図」がなかったとしても、だ。)


そんなことも含めて世界同時開発、国際共同治験を進めるべきだという考え方もある。

しかし、いずれにしても世界同時開発や国際共同治験が進むかどうかは、その結果コスト的にもリスク的にもリーズナブルであり、十分に

見返りが企業に期待できるかどうか、という市場原理に左右されることだろう。(僕はそう思っている。)


ただ、大義名分的に「我が社はリスクを冒してでも、国際共同治験を推進する、それこそが製薬会社の使命だ」という売り文句は使える。

もちろん、心の底からそう思って、国際共同治験、世界同時開発を推進している会社も無いわけではない。


ここで、一般市民(特に患者)にたって、新薬の世界同時開発を考えてみよう。

最近、「ドラッグラグ」という言葉が製薬業界で使われ始めた。
ドラッグラグとは、海外では新薬が使われているのに日本ではまだ承認されておらずその新薬が使われていない状況を指す。
例えばアメリカで標準的に使用されている抗がん剤が、日本ではまだ承認されておらず、がん患者に使用できない、という悲惨な状況だ。

このドラッグラグを解消する方法として、一般的に「世界同時開発」(国際共同治験)が推奨されている。
(もちろん、世界同時開発よりいいのは、「日本先発開発」なのだが。)

ところで、本当に「世界同時開発」(国際共同治験)が進めば、ドラッグラグが解消するのだろうか?
実は、そうは簡単にはいかない、というのが僕の考えだ。

たとえ、世界同時開発(国際共同治験)で新薬の開発を行ったとしても、今の日本では明らかに海外よりも治験の進み方が遅い。
つまり、日本人のデータ集積が遅いのだ。
そうなると、結局、日本の治験の終了を待たずに海外の治験が終了した時点で海外では承認申請され、結局、日本の新薬の承認は海外より

も遅くいまま、というのが僕の予想だ。