新薬開発における『イノベーション25』

先日、『イノベーション25』の最終案がまとまった。

その中に下記の記述がある。


イノベーションの創出・促進に関する政策は、国民一人ひとりの自由な発想と意欲的・挑戦的な取組を支援する「環境整備型」へと考え方を大きく転換していかねばならない。

長期戦略指針『イノベーション25』は、2025年までを視野に入れ、豊かで希望に溢れる日本の未来をどのように実現していくか、そのための研究開発、社会制度の改革、人材の育成等短期、中長期にわたって取り組むべき政策を示したものである。

イノベーションとは、技術の革新にとどまらず、これまでとは全く違った新たな考え方、仕組みを取り入れて、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことである。

このためには、従来の発想、仕組みの延長線上での取組では不十分であるとともに、基盤となる人の能力が最大限に発揮できる環境づくりが最も大切であるといっても過言ではない。

そして、政府の取組のみならず、民間部門の取組、更には国民一人ひとりの価値観の大転換も必要となる。


したがって、イノベーションの創出・促進に関する政策は、従来の政府主導による「個別産業育成型」、「政府牽引型」から、国民一人ひとりの自由な発想と意欲的・挑戦的な取組を支援する「環境整備型」へと考え方を大きく転換していかねばならない。



★『イノベーション25』の基本的な考え方

長期戦略指針『イノベーション25』では、その特質を踏まえ、以下の5点を基本的な考え方とした。


1.未来に向けての高い目標設定と挑戦

2.グローバル化と情報化の進展への的確な対応

3.生活者の視点の重視

4.多様性を備えた変化と可能性に富む社会への変革

5.「出る杭」を伸ばす等人材育成が最重要





では、ここで、上の5つの基本的な考え方を製薬業界にあてはめて考えてみよう。


「1.未来に向けての高い目標設定と挑戦」

医薬品開発は常に「未来」に向かって挑戦し続けている。
しかし世界的な大企業でも新薬の「種」は尽きることもあり、現在は、ベンチャー企業が、その間隙を縫って活躍している、という状況だ。
これからの20年間は、今以上にベンチャー企業が頑張ることだろう。
大企業は、そういった特色あるベンチャーとの提携により(あるいは吸収合併により)、新薬の種を手中の納めるか、種だけを導入するという路線が進むはずだ。


じゃ、大企業は自らが高い目標を掲げて挑戦しなくてもいいかというと、もちろん、そんなことは無い。
せっかくベンチャーから導入した新薬もいつかは特許が切れるし、自社開発製品が出ないと、自社の研究所の「腕が鈍る」。

20年前はベンチャーだった「アムジェン」は、もはやベンチャーとは言えず、立派な大企業になった。
そのうちにベンチャー企業も他のベンチャー企業を頼るようになり、やがてはベンチャー同士の合併などが出てきて、新たな挑戦者がまたこの「新薬開発競争」に参戦するようになるだろう。

以上より「1.未来に向けての高い目標設定と挑戦」は、『イノベーション25』で言われるまでもなく、否が応でも製薬業界は常に目指すべきものである。


「2.グローバル化と情報化の進展への的確な対応」

イノベーション25』の2番目の基本的考え方は、まさにたった今、我々が直面している課題だ。
グローバル化(新薬の世界同時開発)は、わずかながらも、その数を日本でも増やしてきた。
今後は中国やインド、台湾、韓国などのアジア勢の一員として、新薬の基礎から世界開発までを一手に担うエリアとなるだろう。

「情報化」と言う意味ではゲノム創薬、抗体医薬品など、複数のデータベースを有効に使いながらの基礎研究から応用研究を進める方向が定着している。
このような、言わば「新薬開発領域」という「閉じた」世界での「情報化」は進んでいるが、インターネットという「開いた」世界における「情報戦略」は、今のところ、あまり大きな成果が出ていない。
(ちなみに、先日、DNAのらせん構造を解明したワトソン博士のゲノム情報が一般に公開された。ある特定の個人のゲノムが公開されるとは、珍しい話だ。)


「3.生活者の視点の重視」

「生活者の視点」というくくりで言うならば「QOL向上」を目指した新薬の開発が数年前から加速されてきた。
「重病」とは言えないが、生活の質という立場で考えると本人にとっては「深刻な悩み」を解決するための薬だ。
今後は高齢者社会が加速度的に進むので、ますます、製剤的な工夫やDDS等の製剤化技術とともに基礎研究も[
生活者の視点に立って」進むことだろう。


「4.多様性を備えた変化と可能性に富む社会への変革」

新薬の開発は国際化して、世界同時開発になってきたとは言え、製薬会社そのものは、日本の場合、まだまだ多様性を持っているとは言えない。
もちろん、外資系の場合、会社のトップに外国人が多いが、一般的スタッフにはまだまだ受け入れが少ない。
僕の感覚ではアジア系の人たちが、最近、社内に多くなってきた、という会社が多い気がする。
いずれにしても、まずは、自分たちの世界を多様化させ、異質な文化同士がぶつかりあいながらブレークスルーを打ち出していく、というあたりを目指していけばいいな、と思っている。


「5.「出る杭」を伸ばす等人材育成が最重要」

さて、最後の項目はもっとも重要で、かつ、「う〜〜〜ん」的な問題だ。

ベンチャー企業はそもそも、会社自体が「出る杭」なので、その中で出る杭が自然発生的に育つ風土がある。
問題は「大企業」だ。

「僕の治験活性化計画」にも書いたが、製薬業界も歴史の長い、成熟産業だ(IT業界などに比べたら)。
ずいぶんと「一人ひとりの意識の中にある見えないタテの壁、そして大学、企業、府省等々どこの組織にもあるタテの壁」があると僕は思う。
また、これからの治験や新薬の世界同時開発を目指すとき、もっとも重要なことは「社会に存在する変化を拒む様々な壁と抵抗を撥ね退けてイノベーションを起こす」ことだ。

治験の活性化に頑張る製薬業界が目指すべき『イノベーション25』は10−20年を見据えれば、すべては人つくりなのである。

まぁ、これは製薬業界だけでなく全ての産業で言えることだけど、「人材」こそが「会社」なのだ。
もちろん、その人材に「あなた」が成って悪い理由はない。あなたこそが「人材」になるべきなのだ。

出世や報酬などを忘れて仕事に没頭することが好きな『ひときわ異彩を放つ“出る杭”』のあなたがた、皆さんが、これからの20年を創造していく主役であることだけは間違いない。