脊髄の難病「HAM」、理解求める取り組み始まる

HAM(ハム)という病気がある。

白血球に感染するウイルスが引き起こす脊髄の病気。
足がしびれたり、こわ張ったりして、歩行やトイレがむずかしくなる。

全国に1500人程度の患者がおり、治療法を探る取り組みが始まっている。
患者会もでき、医療関係者を含めた多くの人に、この病気への理解を求めている。

◆診断つかず不安の日々◆

 鹿児島市の女性(46)が「おかしいな」と思ったのは、33歳のときだった。子どもとドッジボールをしても足が動かない。自転車にのれば転んでけがをする。

 病院へ行っても「老化ではないか」と言われるだけだった。2年後、総合病院の神経内科で「HAMの疑いがある」と言われ、鹿児島大学病院で検査した。

 HAMは、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV−1)が引き起こす脊髄疾患だ。菅付さんはこのウイルスを持っていた。家族は検査で陰性だった。23歳から貧血でときどき輸血してきた血液で感染したらしい。

 症状を和らげる薬を使い、つえを持つようになった。しびれで足がじんじんと痛む。横になると、反射で足が持ち上がってしまい、眠れない。排便や排尿もコントロールできない。

 「患者同士のネットワークを作るために、ホームページを開設してみては」。主治医である鹿児島大医学部第三内科の松崎敏男さん(44)に、勧められた。女性はためらった。周囲にどこまで理解してもらえるのか心配で、病気のことを言えなかったからだ。

 昨年4月、松崎さんの熱心さに負け、ホームページを作った。全国から反響が届いた。同年6月にHAM患者友の会「アトムの会」を始めた。

 会員は現在、患者や家族ら約600人(患者は169人)。彼女は手芸の店を経営するかたわら、電話やメールで相談に乗る。

 埼玉県の一人も、患者会を知って参加した。

7年ほど前、よく転ぶようになり、整形外科や脳外科などで検査したが、原因がわからなかった。98年に、弟がHAMと同じHTLV−1によって起きる成人T細胞白血病(ATL)と診断され、その人自身もHTLV−1を持っていることが判明。しかし、ATLではなく、01年になってようやく、6カ所目の病院で「HAM」とわかった。

 患者会では、関東の患者と話し、「症状が重くなっても、いろんな生き方がある」と思うようになった。会の顧問である医師の松崎さんにメールで相談もできる。「診断されずに悩んでいる患者も多い。医師もHAMのことを知ってほしい」

 アトムの会ホームページは次の通り。http://www.minc.ne.jp/~hamtomo/

◆高い治療費補助要望へ◆

 HAMに効果のある薬「α−インターフェロン」は、1カ月使うと約100万円。
医療保険が適用され、高額医療費の返還制度があっても負担は重い。
HAM患者友の会「アトムの会」は2月に署名を呼びかけ、厚生労働省に「特定疾患」の認定を要望する予定だ。

 厚労省によると、「特定疾患」と認定されている難病は121種ある。

認定されると国から研究費の補助を受けられる。さらに121種のうち、より症状が重い45種は、患者の治療費も国と都道府県が補助し、患者の負担を軽減している。

 補助を受けている患者は約53万人いる。特定疾患の認定要件は(1)患者がおおむね5万人未満(2)原因不明(3)効果的な治療法が確立されていない(4)長期療養が必要、となっている。

 鹿児島大の松崎敏男さんは「治療を続けられない人や、働けなくなる人もいる。支援が必要だ」という。

 認定は、厚労省が専門家からなる懇談会の意見を聞いて決める。

◆進行防ぐ薬開発に期待◆

 HAMは86年、鹿児島大医学部第三内科の納(おさめ)光弘教授(61)らが見つけ、名付けた。

 同じウイルスのHTLV−1が引き起こす血液のがんの一種、成人T細胞白血病(ATL)は知られていた。納教授らは、HAMはATLとは違う脊髄の病気だと、厚生省(当時)の研究会で発表した。英国の医学雑誌にも発表し、第三内科は世界保健機関(WHO)から「HTLV−1による神経障害の研究機関」に指定された。カリブ諸島で同じ病気があることもわかった。

 HTLV−Iを持つ人(保因者=キャリア)は国内で約100万人と推計される。特に西日本、九州、沖縄に多い。このうちATLを発症するのは年間で1000人に1人、HAMは10万人に3人程度だという。感染経路は(1)授乳による母子感染(2)継続した性交渉(3)輸血、がある。86年以降は献血にHTLV−1の検査が導入され、輸血による感染は報告されていない。

 ATLもHAMも、詳しい発症の仕組みはわからず、完全な治療法も確立されていない。一方で、HAMは、薬やリハビリによって病気の進行を遅らせられることがわかってきた。「ステロイド」で炎症を抑え、「α−インターフェロン」でウイルスを減らせることも確かめられている。

 厚労省の科学研究費補助を受けている納教授らの研究班は現在、新薬の開発に取り組んでいる。ウイルスができるのに必要なたんぱく質分解酵素を阻害する薬をつくれれば、ウイルスをなくし、症状の進行を食い止める可能性が出てくる。

 ウイルスを持つ人のうち、発症する人としない人の遺伝子の違いも、一部はわかっている。研究が進めば、発症を防ぐ手がかりになるという。


この手の「特定疾患」について、国に認めさせるのは相当、難儀な話になる。
一般の市民だけではだめなので、それそおうの医師を手元に置き、国を動かしていく必要がある。

そのような手段でも講じないと、病気の存在すら知られなく、薬の開発も遅くなる。

・・・この点は、僕ら製薬会社の人間の責任でもあることを肝に命じておく必要がある。






 <HAM> ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV−1)が引き起こす脊髄の病気。このウイルスを持つ人(キャリア)は世界で220万人以上と推計され、日本のほかカリブ諸島に多く、南北米やアフリカ、ヨーロッパにも分布する。国内では九州など西日本に多く、授乳による母子感染が多いことから、日本人のルーツを探る手がかりのひとつ、と考える研究者もいる。HAMの発症率は低く、患者は全世界で3000人余り、国内では1500人程度とみられる。