行動:ホルモンが結ぶ信頼の輪

人間を親しくさせる化学物質

信頼は信頼を生む。そして、その背景にはオキシトシンというホルモンが働いている。新たな研究でこんなことが分かった。オキシトシンは体内で情報を伝達する化学物質だが、人間どうしが親密になるのにも役立っているのかもしれない、と米国ルイジアナ州ニューオーリンズで開かれた神経科学学会の年会(11 月8日-12日)で研究者たちが発表した。


クレアモント大学院大学(米国カリフォルニア州クレアモント)のPaul Zakによると、人間のオキシトシンのレベルは、信頼されているというシグナルを受け取ると上がる、という。そして、ホルモンのレベルが高い人は気前よくお返しをし、だから、人を信用しやすいといえるという。


Zakらの研究チームは、19人の被験者にそれぞれ10ドルを与えた。お金を受け取った被験者は、与えられた10ドルを見知らぬ被験者1人と分けるよう求められた。次に、この見知らぬ被験者は、分けてもらったお金を実験の主催者によって3 倍に増やしてもらったうえ、お金を分けてくれた被験者に一部を返してもよいと告げられた。この結果、お金を分けてもらった被験者のうち54%が、分けてくれた被験者にお金を返した。もっとも気前よくお金をあげた人や、返した人たちは、オキシトシンのレベルももっとも高かった。


この実験で、排卵中の女性は容易に人を信用しないことを研究チームは発見した。これは理にかなっているとZakは言う。妊娠するかもしれない女性は財産を守らなければならない。また、ベストの相手を選ぶために、社会的なシグナルを慎重に選択する必要がある、とZak は説明した。


ロンドン大学ユニバーシティカレッジの神経科学者Richard Frackowiakは、今回の研究が自閉症の原因も明らかにしてくれるかもしれない、と言う。自閉症の人たちは、他人を信用しすぎることがよくある。オキシトシン扁桃体の細胞にシグナルを送る。扁桃体は、感情や社会的行動にかかわり、自閉症にも関係していると考えられている脳の領域だ。


オキシトシンは、新たに母親になった女性に母乳が出るようにする働きがあり、母と子のきずなを強める。ラットでの実験では、スキンシップがオキシトシンのレベルを高めることが分かっている。また、オキシトシンはストレスホルモンも抑制する。